2013年12月23日月曜日

Vinyl Experience (7) デジタルと共存するレコード


Text:堀 史昌

「レコード製造のクオリティが向上していることがリバイバルの一つの理由だ。だが、レコード会社は無料のデジタルコピーを付与することでレコードの売上を促進し続けており、このことがより(リバイバルに)大きな影響を与えていると信じられている」
(metro uk)

第五回でデジタル音楽へのアンチテーゼとしてレコード人気が浮上しているという現象を紹介した。しかし、それとは逆にデジタルの登場によってレコードの人気が上がっているという見方もある。ミシガン州グランド・ラピッズにある独立系レコードショップ「Vertigo Music」の店主Herm Bakerは、長引く不況の最中でも生き延びることができた理由をこう語る。

「我々が生き残ってこられたのは、近年のレコードの爆発的な売上のおかげだ。単純な話さ。今は多くのレーベルがレコードにダウンロード用のパスワードを封入している。これによってどれだけ経営が助けられていることか」

雑誌/ウェブマガジン、Wiredにもこんな一節が載っている。
「音楽ファンはポータブルプレイヤーやパソコンでも音楽を聴いているので、マタドールや他のレーベルは楽曲のMP3ヴァージョンをダウンロードできるようにレコードのパッケージにクーポンを入れている。Amoryはクーポンプログラムを超人気だとしている」

やはり欧米でレコードが売れている要因の一つは、ダウンロードコードをおまけとしてつけていることが功を奏している事が分かる。レコードにダウンロードコードを封入するのは今や常套手段となっている。外で聴く時はデジタルで、家でじっくり聴きたい時はレコードで、あるいはコレクションの対象としてレコードを買い、実際に聴くのはデジタルという使い分けも可能となる。アナログとデジタルが上手く共存している好例である。

この流れをさらに促進しそうなのが、米Amazonが今年1月から新たに始めた「Amazon Autorip」というサービスだ。このサービスを一言で説明するならば、CDを購入すると無料でMP3音源が付いてくるものだ。当初はCDだけに限定されていたが、現在は対象をレコードにまで拡げている。

レコード人気を支えてきた独立系レコードショップがデジタル販売へとアプローチを始めている。カリフォルニアの名物レコードショップAmoebaは、今年から手に入れにくい廃盤・貴重盤のレコードをデジタル化してオンラインで販売するサービス「Vinyl Vaults」をスタートさせた。AmoebaVinyl Vaultsのために10億円の資金を投じ、200人ものスタッフを採用したというから、このビジネスに賭ける本気度がうかがえる。サービス開始時から著作権問題もメディアから指摘されていたが、Amoebaは臆することなくサービスを継続している。訴訟のリスクを覚悟でサービスをスタートさせるところは、既存の著作権法に抵抗してきたGoogleYoutubeといったアメリカの企業らしい。

ロンドンの独立系レコードショップRough Tradeも今年に入ってから、イギリスの新聞The Guardianと組んでサブスクリプション型サービスの「Tracks Of The Week」を始めている。週2.99ポンドを支払うと毎週金曜日にRough Tradeが選んだ新曲MP36曲届けられるという仕組みになっている。また、「Rough Trade Card」という仕組みを導入し、「Amazon Autorip」と同様のサービスを開始する予定である。

リアルショップでのレコード販売を継続しながらも、新たなデジタル型のビジネスに着手するRough TradeAmoebaの両者のアプローチからはデジタル音楽を敵対的なもの捉えるのではなく、うまく共存しようとする柔軟な姿勢が垣間見られる。これらの取り組みよって、デジタル音楽しか聴かないというリスナーもレコードに興味を抱く可能性を拡げていることは間違いない。(続く)

0 件のコメント:

コメントを投稿