2014年2月13日木曜日

Vinyl Experince (8) レコードにハマる若者たち



Text:堀 史昌


2008年に発行された米ビルボード誌の特集のタイトルに「The iPod Generation Takes Vinyl for a Spin」というものがある。08年と言えば、レコード人気に火が付き始めたばかりの頃だが、その当時からiPod Generationと称される若者たちがレコードに向かっていることが分かる。Audio Fidelity社の社長Marshall Blonsteinは「かつてはCDを持っていることがヒップだった。今はレコードを持っていることがヒップなんだ」という。若者達がレコードをヒップなものだとみなし、群がるようになってきている。

それは、Huffington Postの記事にも掲載されていたGracie Managementによる調査にもデータとして現れている。アメリカ在住1834歳の人にアンケートをとったところ、約30%1年以内にレコードを買う予定があるとのこと。この結果を受け、実に2,100万人もの若者達がレコードを買う可能性があるとしている。
   
毎年4月に行われるイベントRecord Store Dayでもレコード購入者の内、約4割が25歳以下、約8割が35歳以下だそうだ。現在のレコード人気が、いかに若者によって支えられているということが顕著に分かる数字である。一方、イギリスでも若い世代ほどレコードを買っているというデータがある。世代別のレコード購入者の割合をみると1824歳が14%2534歳が9%3544歳の5%となっており、やはり若年層からの人気が高い。

「古いレコードの魅力は、多くの若者たちが最新のトレンドだと考えるまでに広がりつつある。それは、過去にレコードを生み出したはずの音楽業界に打撃を与えるほどのものだ」フリーライターのLisa Masonはそう綴っているが、実際の当事者である若者の声を見てみよう。Andy Cushという22歳のアメリカ人男性がウェブサイトevlover.fmにこう書いている。以下、引用。

「ナップスター (それにライムワイアー、ベアシェア、ソウルシークなども。覚えているかな?) と共に育ってきた自分達の世代はMP3に金を払うのは馬鹿馬鹿しいと感じている。それはCDに関しても同じ。MP3でやることと言えばPCiPodにリッピングするだけ。そんな自分達にとって、レコードはインターネットでタダで簡単に手に入るものとは違う価値がある」
(引用終わり)

Acid Mother TempleZeni Gevaなどで活動するギタリストの田畑満氏は
「こっちではアナログ・レコードは完全に復権している。リイシューの量の凄いこと。MP3, ダウンロードに金を払って購入してるヤツなどいないらしい。ダウンロードで金払うならFLACとのこと」とツイートしていたが、ナップスター世代の若者であれうばMP3に金を払う気になれないのは当然だろう。

そんな彼らは携帯のiPhoneMP3を渉猟し、家に帰っては自分のお気に入りのレコードをじっくりと味わっているそうだ。音楽のデジタル化が進むにしたがって、若者達がレコードの良さを再発見し、レコードの人気が高まっていく。ここでも先述した螺旋的法則が見てとれる。

「個人的に、アルバムはCDLP、いずれかのマテリアルで持っていることにずっと愛着を持ってる。私はレコードで音楽を聴くことが本当に好き。だって、自分が聴いている本当に多くのバンドが、一番最初に録音したのがレコードだから。グッドミュージックはナチュラルな状態、つまりレコードで楽しむべきだわ」

これは何歳の人の発言だと思うだろうか?実は16歳のアメリカ人女性、Caitlin Brownのものである。レコードというと古臭く、若者が聴くようなメディアではないと思う人もいるかもしれないが、そうではない。Caitlinのような若年世代がレコードに入れ込んでいるという例は枚挙に暇がないのである。

心理学者のVivian Diller17歳の息子からこう言われたそうだ。
「現実的に音が響き、見ること、感じること、触れることができて、手に抱えることが
出来る音楽はクールだし、美しいんだ」

現時点で10代中盤から後半であれば、彼らが物心ついた時はすでに90年代は終わりを迎えようとしていたか、もしくは00年代に突入していたはずだ。90年代後半に登場したMP3はナップスターの登場により爆発的に広がり、01年にはAppleからi-tunesiPodがリリースされた。つまり、ちょうどこの時期は音楽ファイルが登場し始めた黎明期であり、大衆に普及し始めた時期であった。このような時代に幼少期を過ごした彼らにとって、音楽とは目に見えない、触れることもできない、非実体のものなのだという認識が確立されたとしてもおかしくはない。

17歳の頃からヴァイナルにハマり始めたという、Matt Melvinという22歳の男性はこう述べる。「若い人たちは、より物質的であることや、パーフェクトなレコードを店で探すスリル、レコードをめくる単純な満足感なんかを求めているんだと思う」

物心ついた時からMP3などの、目に見えないファイルで音楽を聴いてきたデジタル世代にとって、真っ黒く、CDよりも何倍も大きな形をしたレコードは完全に異質な存在のはず。だからこそ、その魅力は一際輝いて見えるのだろう。(続)

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