2016年1月27日水曜日

Creation VI「2015.02.06 - live in DOM, Moscow」

ロシアの男女デュオによるモスクワでのライブ。エレクトロニクスと民族楽器を巧みにブレンドしたディープなドローンは、Gasファン必聴。ラモンテ・ファンも驚嘆するだろう。

2016年1月24日日曜日

John Cale「Hot Scoria」

John CaleとAngus Macliseによるギター×ツィンバロムのデュオ。ノー・ウェーブを10年以上先取りしたかのようなノイジー/フリー/ラディカルな演奏に驚かされる。

2016年1月23日土曜日

ニューナンブ(13) 「みんなバカだった その(2)」

Text:Onnyk



<マイナーからピナコテカへ> 

で、魔窟マイナーの閉店が決まり、店主の佐藤隆史さんは最初のLP制作に取りかかっていた。
これが有名な「愛欲人民十時劇場」です。このレコードは以前にも少し紹介しましたね。同タイトルでシリーズ化したライブがあり、それをまめに録音していた訳です。まあねえ、ウンコがおまけについたとかいうことでスキャンダラスな話題になりましたが、その辺のことは他のサイトでも見てください。ウンコ様のオブジェも作品の一部です。たしか「ギャルリーメルデ=ウンコ画廊」なる集団が作ったんでしょ、あれは。

あと、会社名のピナコテカってのは美術館の意味ですよね。この社名は確か、河原淳一さんの案。彼はヴェッダミュージックワークショップの一員だった。ヴェッダMWは、竹田賢一さん主宰の音楽集団のひとつで、名前の由来は後で書きます。ヴェッダMWには向井知恵さん、風巻隆くん、鈴木健雄くんもはいってた。臼井弘之さんもかな。


河原さんは美術畑の人で、私にフルクサスやヨーゼフボイスのことなどを教えてくれた。とてもシャープなデザイン感覚のある人で、最近でた竹田賢一さんの本の装丁もしました。河原さんには1979年の暮れにやった「いんぷろゔぁいずど大晦日いゔ」という 即興演奏家を集めたライブ企画のときに会った。演奏というよりパフォーマンスやインスタレーション感覚で音を出す事が好きでしたでもクラリネットで 循環呼吸奏法ができた。ヴェッダの連中と、第五列は一緒に京都に行って演奏したこともあります。京都では当時まだプログレとか即興をしてたビデも合流 。(このライブも第五列テープにある)。

私は河原氏のようなセンスがなかったので、とても気に入り、1980年には盛岡 まで来てもらい、個展を一週間、画廊でやりましたね。そしたら舞踏家の霜田誠二さんや、東京周辺の第五列関係者が急遽集合し、盛岡市内あちこちで演奏した。第五列週間再びという感じ。 このときの私、河原氏、二人の演奏も第五列テープに残っているのですが、途中でテレコに異常が生じ録音が歪んで、なんだかすごいノイズになっているのです。失敗だなあと思ったが、これを聞き返すと結構面白い。それでそのままリリースしました。

初期ピナコテカレコードのデザインも河原氏が全面的にやってましたが、とにかく今と違ってレコード製作ってのは金がかかる訳です。今でもアナログ盤はそうか。マイナー佐藤、ではなく今やピナコテ佐藤さんは、とにかく金がないんだといつもいってました(後にはその耐乏生活が話題になり、週刊朝日に紹介された )。だから極力経費を切り詰めた。レコードの真ん中の部分であるレーベルは 自分でシルクスクリーン印刷をする。後の方では面倒になってそれもやめたけど。 で、「愛欲人民」が話題となり、第二弾が期待された。そして出来たのが灰野敬二「わたしだけ」。これはCD化もされたし、最近は灰野さんの映画にもでてきたからいいね。ですが、ピナコテカにはこの2枚で話題にはなっても金が入らなかったようです。集金が思うように行かない。そのくせ納品には金がかかる。なにしろ相手は全国の弱小レコード店ですから。

それで彼は「このままじゃダメなんで、何か特許をとろうと思うんだよ」という。「三角形のレコードジャケットを意匠登録できないかな」と聴かれたのですが、私は既にそういうのがあることを知っていた。オランダの演奏家、ヴィレムブロイカーのです。それでも佐藤さんは落胆せず「じゃあ、開いた時菱形になるような正三角形で、二枚組にして」とかいう。どっちにしてもそれでは 特許取れないでしょうし、特許ってとるまでが面倒だし金がかかりますよね。でも佐藤さんは果敢に挑戦した。そうして出来たのが正三角形ジャケットの二枚、コクシネルと、ANODE/CATHODE=アノード/カソードなんですね。後に大友良英なんかがやったアノードとは一切関係ないです。 

 <「パンカナクロック」アノード/カソード> 

ピナコテカは決して順調な滑り出しではなかった。佐藤隆史さんはなんとか特殊ジャケットで話題作りを考えた。そこでレコード盤自体は17センチの。いわゆるシングル盤サイズで、それに外接する正三角形のジャケットに入れようと考えた。単純に正三角形ではなく、 開くと菱形になる。そしてレコードが二枚、対称的に入るように考えた。この製作は手作業ですよ。印刷は結局四角い紙で納入されるから、切り取って組み立てなきゃならない。

佐藤さんは経費削減を手作業でカバーし、特殊性もそれで得られると考えたのです。佐藤さんの、そういう案に我々は納得しつつゲソ藤本君などは、その作業も手伝って大変だったとか。私は盛岡にいたので申し訳ないけど手伝ってない。私がとにかく考えていたのは実験的なロックサウンドのことだけだった。それと匿名性、無名性ということ。これは第五列発足当初からの姿勢だった。 音、音響、演奏、音楽、録音そういうものに個々の名付けをし、かつそれを所有するということへの批判、拒否を考えていた。集団即興などやったら、それは誰の所有にもならないでしょう。

まあだからロックもそうしていきたいと、私の名前ではなく、架空のバンド「アノード/カソード」ということにした。後で似たような名前のユニットが幾つかあるのを知ったけど。そしてこのバンドについてストーリーをゲソ藤本と作った。そしてピナコテカから発売されるレコードは、このバンドの友人が持ち帰ったカセットを盤にしたものであり、 極めて曖昧な情報しかないが、驚くべき音楽なので紹介する事にした、というものです。これは間章の文体を真似してレコードに添付する事になりました。レコードのタイトルはゲソが付けて「パンカナクロック」とした。パンクでアナクロなロック、というくらいの意味ですね。 

私と、盛岡在住の中坪清一さんが協力して作ったサウンドに、もう少し何か加えることになり、曲によってゲソの声とか、シンセサイザーの音を入れることにした。そのミキシングの一部はピナコテカ本社社屋(つまり佐藤さんの自宅 )でやり、またシンセサウンドは、西武美術館のショップであるアールヴィヴァンの当時の店長で作曲家、演奏家だった芦川聡さんの家でやらせてもらった。芦川さんはマイナーに出た事もある。芦川さんについてももっと書かなきゃならんのですけどねえ。 

<とほほ・・・・・> 

さて、こうして4トラック製作し、いよいよマスタリングとなった。しかし私もゲソ藤本も都合が付かず、佐藤さんにすべてを託すことになった。佐藤さんはとにかく金がなかった。マスタリングにつかうオープンテープもなかった。 そこで放送局で使用済みのテープを安く買い取り、これを消去して使うという事を考えた。そういうテープは、放送内容が入ってるので、使われる事がないように特殊な消去がしてあった。つまり巻いてあるテープの半円部分だけ直線的に消してある。そのまま聴くと、ブツ切りの録音がきける。で、佐藤さんは そういう中古テープを沢山買い込んで、不要な音を消去し「アノード/カソード」のマスターテープにすることにした。そしてそれをカッティングに回した。

ここから先はレーベルではなく、レコード製作会社の仕事です。レコード製作の過程として、出来たマスターテープをカッティングマシンにかけて、そのサウンドの振動をマスターディスクに刻んで行く。それを元にメタルマザーディスクを作り、それで樹脂をプレスすると レコード盤になるという訳です。ですからこのカッティングという作業が実に微妙。これで音質が決まる。いくらマスターテープをいい音で作ったところで 、カッティングが悪いとだめです。だから昨今のCD作りなんかと違って、サウンド作りに幾つかの壁がある。カッティングも専門の技術者がいて、腕次第ということがある。 

当時沢山の自主制作レコードは出ていたけれど、みな音がやせている。それはカッティングに立ち会う事ができず、技術者任せになっていたので、どういうサウンドにしたいかが伝わらず、結局、高音も低音もそこそこの中途半端というか平均的なカッティングで終わっていたからです。そしてカッティングまで終わればあとはもう注文枚数がプレスされるだけ。どんな音になって出来上がるかはマスターテープを渡してしまうと、もう注文の付けようがないのです。で、佐藤さんはマスタリングしたテープをプレス会社に渡したという。我々は楽しみに待っていた。ある晩、佐藤さんから私に電話が来た。

「あのさあ、レコードできたんだけどね」
「良かったですね、どうですか」
「ちょっと問題があるんだよね」
「というと」
「余計な音が入ってるんだ…」 
「はあ?」 

つまり簡単に言うと、佐藤さんは消したつもりの放送局の録音が、テープの一 部に残っていたというのです。説明は面倒なんですけどとにかくマスターテープからカッティング時に再生された音に、放送内容の一部がとぎれとぎれにかつ、逆回転で入ってしまったのです。会社に渡したとき、確認で一応聴けば良かったのに、何故だかその日佐藤さんはそれをしなかったという。 カッティングエンジニアは、渡されたテープをただ単にメタルマザーにするだけ。なんか変な音が入っていると思っても、そんなのは気にしない。だって次から次と訳の分からない録音が持ち込まれるからね。いちいち「これでいいんですか?」なんて確認しない。

結局我々が全く意図しなかった、過去のどっかの放送の途切れ途切れの逆回転の音が、プレスされたレコードにも入ってしまった。「とにかく一度聴かせてください」「じゃあ、一応送るね」 ということで来たのですが、いやはやなんともいえない混沌になっています。表現しようがないというのはこういうことでしょう。おまけに17センチ盤の33回転というのはさらに音がこもってしまっている。


ご存知かと思うけど、回転数が早くて、盤が大きいと音が良い。一時期、45回転の30センチシングル盤が 売れたのはその理由です。 ゲソ藤本も「もう笑うしか無いね」といい、「意図せざるサウンドが出来たと いうのは、ある意味いいのかもしれない」ともいい、私は悲しみを抑えて「面倒だからもうこれでいきましょう。どうせこれって私たち名義の演奏じゃないんだし」と、居直ってしまいました。 佐藤さんもかなり落ち込んでいました。なにしろこのトラブルというかミスの 全ての責任は彼にあるんですから。その結果も彼に回って来る。


第五列は演奏と労働力以外、何も出していないし、第五列の名前はどこにもだしていないんです。 実は、佐藤さんにはリリースにあたり、さらなる計画があって、「パンカナク ロック」を2枚組にしようとした。しかしその一枚は、なんと日本の歌謡曲だった。それは佐藤さんがどっかの中古屋の倉庫で一枚10円くらいで買ってきた ものを、ジャケットもそのまま、開けば菱形になる正三角形の袖の片側に入れ てしまった。この意図はよくわかりません。もうこうなったらなんでもありで す。 こうして世にも奇妙な17センチ盤がリリースされました。まあ、私は悔しかったから、第五列テープの番外編として「アノード/カソードのレコード化されなかった全曲収録カセット」としてカタログにいれました。それも結構、聴かれたと思います。また実はPPPの最初のコンピに入った曲 も、シンセや声を重ねる前の私が一人で多重録音したままの時点での一曲が入ってるのです(多分、ロックマガジンのコンピにも)。

<その後のピナコテカ> 

佐藤さんは三角ジャケットのアイデアにこだわりがあって、もう一枚の同じ体裁の17センチ盤を出した。それは金沢のバンド「コクシネル」だった。前回の反省に懲りて、録音もマスタリングもカッティングもきちんとやり、変なオマケは付けないで、銀色地にキッチュな色合いの福助が描かれたレコードがリリースされた。これはまあ良かったし、バイオリンが入って、女性ボーカルのコ クシネルは売れたようです。たしか映画にもでてましたね。後にはまともな30センチ盤をだしています。前後は忘れたけどNORD(ノール、こりゃフランス語の「北」でしょ。セリーヌからとったかな)というLPも出た。これは最初びっくりしたな。全面ノイズに聞こえた。リズムボックスがゆっくり刻んでるから、まあなんだかロックなのかなとか思ったけど、最近聞き直したら結構気持いい。ホワイトハウスとか ザ・ニュー・ブロッケイダーズとかヘイターズよりも音楽的だな(笑)。初期のエスプレンドル・ヘオメトリコをダークにしたら印象は近いかも。

レコード製作が少しうまくなってきて、話題のバンドが出るようになった。「暗黒大陸じゃがたら」の「南蛮渡来」とか、グランギニョルとか、大編成でかなり構成的な演奏をするパンゴとか。 あと、フリージャズの余波といっていいのかもしれないけど、芳賀隆夫のアルトサックスのソロ「ピヨピヨ」(日本人てアルトサックスソロが好きですよね 。それについてまた考察したい。一度、Gモダーンには、アンソニー・ブラク ストンの考察として書いたけど)。これは割と地味だったな。 

そしてさらなる話題盤が企画された。それがかつてガセネタでボーカルをやっ ていた山崎春美が率いるタコです。参加メンバーには既にメジャーの坂本龍一もいたし、若手音楽学者として知名度の上がって来た細川周平(「ウォークマンの修辞学」なんて売れたね)も。とにかく山崎氏の人脈の広さが分かろうと いうものです。ライブなんかも話題でしたね。その後ライブも出したけど。ピ ナコテカ盤としてはジャケットがまたすごい。あの「塀の中」で一気に人気の出た漫画家、花輪和一のオリジナルです。なんだろう、セミのような人物は。不気味でした。とにかくまあピナコテカが出すレコードは次々話題作となった。しかしそんな中で「パンカナクロック」は初期の疑問符として忘れ去られていった。私もそのほうがよかった。(続)

John Cale, Jack Smith & Tony Conrad「Silent Shadows On Cinemaroc Island」


2016年1月9日土曜日

灰野敬二「Tenshi No Gijinka」

キャリア初となるパーカッション・ソロアルバム。かつてMayo Thompsonが灰野敬二について「彼には音楽の天使が見えるんだ」と語っていたそうだが、タイトルにあるTenshiとは音楽の天使のことなのだろうか。打楽器のみならず、世界中で集めた楽器から無限とも言える音のヴァリエーションを引き出していく。”一つの音”に尋常ではない拘りを持つ灰野敬二の哲学が刻み込まれた重要作。


2016年1月8日金曜日

Lichens「M St R Ng W Tchcr Ft L V Ng N Sp R T」

OMのメンバーでもあるRobert Loweのソロ・プロジェクト。静謐としたアコースティック・ギターとドローン音が絡み合う演奏から、女性コーラスや鳥の鳴き声を交えたミュージック・コンクレート的展開を見せるエクスペリメンタル・アシッドフォークとでも呼びたくなる内容。


2016年1月5日火曜日

Baba Yaga「Collage」

イランのマルチプレイヤーNemat Darmanと、ドイツの鍵盤奏者Ingo Wernerによるデュオの74年アルバム。中東音楽の要素を取り入れながらも、それにおもねることなく自在に展開していくエクスペリメンタル・ジャズロックは比類なきスケールに達している。Holy Palmsファン必聴。


2016年1月4日月曜日

Alu「Geistige Erneuerung Tape '83」

ガバに荒々しいフィメール・ヴォーカルを乗せるという、Atari Teenage RiotミーツSuckdog的サウンドを1983年の時点で体現していた恐るべきグループ。

2016年1月3日日曜日

Xao Seffcheque Und Der Rest「Eine Nacht In Tunesien」

サックスを重ね合わせたジャジーな演奏から突如として、高速化したヨーデル的唱法を交えたスキャットへと雪崩込んでいく展開は、もはや天才の所業としか思えない。

2016年1月1日金曜日

Wrecking Project「S-Sonics」

Delroy Edwards主宰レーベル、LA Club Resourceのコンピ第一弾収録。シュールな展開が何とも味わい深いロウハウス。